畜産の研究 第70巻 第08号 (立ち読み) - book stack, 書籍pdf ...bcs 3.25 3 3.75 4.25 図...

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目  次

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~ 670

東日本大震災を振り返って大規模災害時 における飼料流通を考える…………………田川伸一ホルスタイン種分娩牛におけるインスリン抵抗性と 低カルシウム血症の関係………石田聡一・高浦一希天然由来資源を用いたバイオセキュリティ への取組み……………………………………二井博美実践飼料学の失敗と成功(12) ―品質管理半世紀の軌跡から―……………本澤清治各種高品質メイズの養豚飼料的価値…………大成 清飼料学(136)―飼料添加物(feed additives)― ……………………………………岡野圭介・石橋 晃Dr.Ossyの畜産・知ったかぶり(62) 畜産の機械化・電化について⑨……………押田敏雄沼沢植物ヨシおよびヨシ+ギンネム飼葉 供給が乳牛の生乳生産性に及ぼす影響 ―ネピアグラス代替の可能性(その2)― ―ピラール大学農牧および地域開発学部における 卒論指導の一例 その3 ―………………冨田健太郎オリンピック「観戦」を「感染」にしないために ―「蚊」の感染症を考える―…………………編集部

畜産界ニュース………………………………………………667

産業動物

畜産の研究Sustainable Livestock Production and Human Welfare

2016年8月1日発行(毎月1回1日発行)ISSN2189-9991 CODEN:CKNKAJ2016年8月1日発行(毎月1回1日発行)ISSN2189-9991 CODEN:CKNKAJ

第70巻・第 8 号

2016

株式会社養 賢 堂

606 畜産の研究 第70巻 第8号 (2016年)

また産次による分娩時のカルシウム含量の違いは一般に知られているとおり,初産次の血清

カルシウム含量が高く,産次を増すごとに低下する傾向が見られた(図 3)。初産牛 32 頭中,

BCS が 4.0 以上の過肥牛はおらず,NEFA が 1.0mEq/L 以上は 1 頭,カルシウム含量が 7.5mg/dl

以下の低カルシウム血症を呈した牛は見られなかった。

11

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7

6

5

40 0.5 1 1.5 2.0 2.5

血清NEFA (mEq/L)

血清

カル

シウム

(mg/

dl)

図 1 血清 NEFA と血清カルシウム

11

10

9

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7

6

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43 3.5 4 4.5 5

血清アルブミン (g/dl)

血清カルシウム

(mg/

dl)

図 2 血清アルブミンと血清カルシウム

11

10

9

8

7

6

5

40 1 4

9.5

5産次数

血清

カル

シウム

(mg/

dl)

8.5

7.5

6.5

5.5

4.5

10.5

2 3 6 7

図 3 産次数と血清カルシウム

石田・高浦:ホルスタイン種分娩牛におけるインスリン抵抗性と低カルシウム血症の関係 607

BCS での比較においては 4.0以上の過肥の牛では,図 4,5に示されるように分娩時血清 NEFA

含量が高く,7.5mg/dl 以下の低カルシウム血症が多い傾向にあった。

今回の分娩牛については産次が増すにつれ BCSが高く,血清NEFA含量が増加する傾向があり,

また一般に知られている産次数の増加による分娩時の血清カルシウム含量の低下も認められた

ことから,今回の血清 NEFA 含量とカルシウム含量が見かけの相関の可能性も否定できない。

2

1

02.5 2.75 43.5

BCS

2.5

1.5

0.5

3.253 3.75 4.25

血清

NEFA

(mEq/

L)

図 4 BCS と血清 NEFA

2.5 2.75 43.5BCS

3.253 3.75 4.25

11

10

9

8

7

6

5

4

9.5

8.5

7.5

6.5

5.5

4.5

10.5

血清

カル

シウム

(mg/

dl)

図 5 BCS と血清カルシウム

0 1 4 5

産次数

2 3 6 72.5

2.75

4

3.5

BC

S

3.25

3

3.75

4.25

図 6 産次数と BCS

608 畜産の研究 第70巻 第8号 (2016年)

そのため NEFA の異常値が多くなる 2 産,3 産,4 産以上とそれぞれ単相関を調べたところ,

有意差はないものの相関係数は 0.2~0.4 はあり,血清 NEFA とカルシウムの代謝的な関係の

可能性は棄てきれなかった。

一般に血清カルシウム中の約 45%はアルブミンと結合した形になっており,血清アルブミン

が低下するとその影響を受け,血清カルシウム含量も低下するため相関が高くなる。しかし,

今回の当場における分娩牛においては,図 2 に示されるとおり,相関関係が見られなかった。

このことから分娩という大きなストレスに伴う代謝的変化においては血清アルブミンとカルシ

ウムの代謝動態は異なる可能性がある。

3. 分 娩 時 の 血 清 N E F A と 血 清 カ ル シ ウ ム の 関 係

ここで分娩時の血清 NEFA 含量が血清カルシウム含量と相関関係があった原因について整理

してみたい。

この原因として推定されたのが体脂肪動員によって生じる血中の NEFA とカルシウムイオン

との結合や NEFA の増加によりアルブミンとカルシウムイオンの結合が高められ,血中のカル

シウムイオンが低下するというものである。

人の急性膵炎時の血中 NEFA 急増による低カルシウム血症や人やネズミの運動負荷時のカル

シウムイオンの低下が知られている。その原因としてそれぞれ血中カルシウムイオンと NEFA

との結合 3)や NEFA 増加によるカルシウムイオンとアルブミンの結合が挙げられている 4,5)。

一般に人が肥満になるにつれインスリン抵抗性が増し,糖尿病の病態の一つとして血中の

NEFA が高くなることが知られている 6)。前述の分娩牛の BCS と血清 NEFA の関係から推定さ

れるように過肥牛においても内臓脂肪の蓄積が多くなると同様の脂質代謝異常が起こり,さら

に分娩という一つの大きなストレスのため,血中の NEFA が異常値を示すことが多くなると考

えられる。

一般に妊娠牛において分娩時急激にそれも一時的に血中 NEFA 含量が高まるのは,分娩に際

してストレスホルモンであるアドレナリンやコルチゾールが多くなり 7),またエストロジェン

も多く分泌されるためである 8)。過肥牛についてはインスリン抵抗性が強いため,更にそのホ

ルモン感受性は高くなると考えられる。

この異常な血中 NEFA 上昇が過肥牛においては低カルシウム血症を強めている可能性はない

であろうか。

今回の弊社牛群における解析結果を検証するには,やはり飼料給与,飼養管理同一の過肥乾

乳牛において,分娩直前,持効性のインスリン注射の有無など何らかの処置により血中 NEFA

含量に差を持たせた中で血中カルシウム,カルシウムイオン含量に差が出るかの試験をする必

要があるであろう。

4. 過 肥 牛 に お け る 新 た な 低 カ ル シ ウ ム 血 症 の 予 防 法

一般に分娩時の低カルシウム血症の原因としては,泌乳開始に伴うカルシウムの要求量の増

大に対する体内への供給不足である。供給不足になる要因としては,牛のカリウム摂取過剰等

によるアルカローシスやカルシウム摂取過剰等による骨吸収の低下が挙げられる。これに基づ

く血液の酸・塩基のバランスを調整する予防法(“DCAD”)も知られている 8)。しかし,過肥

牛においてはその効果が見られない場合もある。この原因として一般には過肥牛においては,

611

天 然 由 来 資 源 を 用 い た バ イ オ セ キ ュ リ テ ィ へ の 取 組 み

二 井 博 美 1

1 雪印種苗株式会社 (Hiromi Nii)

家畜が伝染性のウイルスや細菌に感染してしまうと生産性低下だけでなく経営継続が出来な

くなる可能性もあります。最近では,高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)が国内で 2004 年に

発生して 2008 年には白鳥から強毒タイプの H5N1 が発生しています。2016 年になっても 1 月

に佐賀県と岡山県で発生しています。また口蹄疫は,2000 年 3 月に 92 年ぶりに宮崎県と北海

道で発生して一旦収束しましたが,2010 年 4 月に再び宮崎県で発生し約 199 千頭の豚,牛が殺

処分されました。その他にもサルモネラ,ヨーネ病など多くの伝染性の病気が発生しています。

これは,家畜の問題だけでなく食品という観点から消費者に対して安心・安全な畜産物を供給

する目的からも大きな問題となります。そのために農場のバイオセキュリティ(防疫対策)が

必要とされています。バイオセキュリティとは,病気を農場の外部からの侵入,農場内での発

生や拡大を防止することです。この防止対策を行う時に重要になるのが適正なシステムと作業

手順に基づき行うことです。このシステムが HACCP と呼ばれています。HACCP とは,原料受

け入れから最終製品までの各工程のごとに,微生物による汚染,金属の混入などの危害要因を

分析(HA:Hazard Analysis)した上で,危害防止につながる特に重要な工程(CCP:Critical Control

Point)を継続的に監視・記録する工程管理システムです。このシステムにより起こりうるリス

クを防ぐことが目的です。畜産農場における HACCP は,家畜の所有者自らが有害物質の残留

等の危害や生産物の温度管理等の重要管理点を設定し,継続的な記録管理を行うことにより,

生産農場段階での危害要因をコントロールする飼養衛生管理と定義されています(農林水産

省:家畜の生産段階における飼養衛生管理の向上について)。 現在畜産農場として HACCP 認

証を受けているのは,82 農場あります(中央畜産会 平成 28 年 5 月 18 日現在)。

高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)は,その感染ルートが野鳥やネズミを経由して伝搬して

いる可能性が高いとされていますがいろいろな要素があり感染源を特定することが難しいのが

実情です。口蹄疫においてもその感染ルートが特定されていなくて,人により伝搬して感染し

た可能性も指摘されています。その他のウイルスや細菌の感染症も人や野生動物が畜舎内に持

ち込むことが要因となり広がるものもあります。そのため多くの農場では対策として,消毒薬

による畜舎の入り口の踏み込み槽の設置や周辺への消石灰の散布などが行われています。野鳥

や野生動物の畜舎への侵入防止に防鳥ネットを張り巡らし,大型畜舎などでは,畜舎を完全密

封して空気清浄によるウイルス侵入防止策まで行ない徹底的な対策を施している農場もありま

す。しかし開放型の畜舎などでは,防疫対策を行うための畜舎改造にもコストがかかることか

らすべての感染リスクへの対応は困難です。

畜産おける防疫対策にもっとも多く用いられている消石灰は,pH が高い強アルカリ性により

ウイルスや細菌を殺ウイルス,殺菌させる効果があります。鳥インフルエンザウイルスには,

ウイルスの外側にエンベローブ(外被)と呼ばれる脂質の層を持っています。このエンベロー

プを石灰の脱脂効果により不活化させる仕組みになっています。しかし消石灰は,空気中の二

612 畜産の研究 第70巻 第8号 (2016年)

酸化炭素を吸収して強アルカリ性が低下してしまうことから定期的な散布が必要であることや

散布時の人に対して皮膚や口,鼻,呼吸器などに付着してしまうと強アルカリによる皮膚や粘

膜へ化学性炎症を起こしてしまいます。そのために文部科学省では,2007 年 11 月に「消石灰

による失明の危険性」から各都道府県の教育委員会などに消石灰の使用をやめるように通知を

出して,国民生活センターでは,消石灰の注意喚起を行っています。このように消石灰は,ウ

イルスや細菌に対して殺ウイルス,殺菌効果は高いのですが,人や家畜に対して炎症を起こす

などの問題があり決して安全なものではありません。

消石灰のほかには,塩素系の消毒剤も多く使われていますが,耐性菌の発現や家畜や人への

安全性や環境への汚染などの問題点があります。

そこで安全・安心な畜産の構築するためには,人や家畜に影響の少ない天然物由来の原料を

利用して殺微生物(殺ウイルス,殺菌,殺真菌)が可能な資材の開発に取組んできていますので

これらの内容についてまとめてみました。

1 . 鶏 卵 由 来 卵 殻 焼 成 カ ル シ ウ ム 粉 末

鉱物質の石灰から製造されているものには,消石灰と生石灰があります。その製造法は,石

灰石(CaCO3:主に炭酸カルシウム)を 1000℃前後で焼成させることで二酸化炭素(CO2)を

揮発させたものが,生石灰(CaO:酸化カルシウム)になります。この生石灰に水を加えて反

応させて加工したものが消石灰(Ca(OH)2:水酸化カルシウム)になります。

2010 年に発生した口蹄疫の殺処分や鳥インフルエンザの殺処分にも大量の消石灰が用いら

れました。この殺処分の作業には,多くの畜産関係者も係わりましたが,自衛隊の隊員も参加

しています。2010 年発生した口蹄疫の殺処分に参加したことを機会にその状況を報告書として

まとめられています。その報告には作業した自衛官がマスク・ゴーグル装着しても消石灰散布

による顔や皮膚などの化学性炎症が報告されており,消石灰に替わる人に安全な資材が求めら

れています。これまで筆者らは,食品残さ物や廃棄物の減容化や畜産の糞尿処理するための装

置の開発を進めてきていました。その成果として衝撃波と高温処理を組合せた方法と高周波過

熱水蒸気による方法の 2 種類の乾燥と減容化装置を開発しました。この装置を用いて食品残さ

物や廃棄物の減容化,炭化,有用性分抽出などの試験を行っていました。その廃棄物としてホ

タテ貝殻,カキ貝殻,鶏卵殻などのカルシウムを多く含む原料の処理と有効利用についての検

討を行ってきました。これらのカルシウムを多く含む原料は,高温加熱することで酸化カルシ

ウムとなることでより pH の高い強アルカリ性になります。衝撃波高温処理と高周波加熱処理

の装置とも 800℃~1000℃以上に加熱することができるために pH を高くすることと多量の処

理が可能となりました。

これらの装置により処理したカルシウムを多く含む原料の中で安定して pH が高くなる原料

は,鶏卵殻でした。卵殻以外のカルシウムを含む貝殻類は,貝に含まれるカルシウム含量が貝

殻の年数や保存状態により異なっていることから安定的に pH12.5 以上を得ることが出来ませ

んでした。しかし卵殻については,成分値が安定しており年数や季節性もないことと貝殻類と

異なり全国各地で入手しやすいことから加工しやすい原料の1つとして取り組んできました。

廃棄物としての鶏卵殻は,発生する割卵や卵加工品製造工場などで粉砕し加熱処理されて,

主に肥料向けの原料として利用されています。これらの卵殻は,そのままでは水分を 30%程度

含んでおり卵膜が付着したものがあるためにそのままでは腐敗するために,卵膜を除去して粉

643

D r. O s s y の 畜 産 ・ 知 っ た か ぶ り ( 6 2 )

畜 産 の 機 械 化 ・ 電 化 に つ い て ⑨

押 田 敏 雄 1

1 東京農業大学客員教授・麻布大学名誉教授(Toshio Oshida)

家畜を取巻く環境,すなわち家畜の飼養環境として空気,水,土壌があげられます。水につ

いては飲料水および尿汚水について既に触れてみました。空気は当然ながら通常の状態では目

視できませんが,必要不可欠な環境の一部です。

空気は気温 0℃,1 気圧,760hPa の乾燥状態で,酸素 21%,窒素 78%などが含まれています。

動物は空気中の酸素を吸入し,体内の有機化合物の持っている化学的エネルギーを酸化・利用

しています。つまり,酸素を吸い,結果として体内で不必要となった二酸化炭素(炭酸ガス)を

吐き出しています。呼吸の「呼」は訓読みで「はく」と読みますが,この両者を合わせて呼吸と呼

んでいます。酸素の消費量は環境温度や年齢で異なり,空気の入れ替え,つまり換気は特に重

要なので,今回はこの換気に論点を絞って述べることとしましょう。

換 気 の 意 義 に つ い て

畜舎では家畜の呼吸や発熱,ふん尿の排せつ,洗浄用水の使用により,空気が汚染されるばかり

ではなく,湿度が高まり,非衛生的な環境に陥りやすい現状にあります。そこで,換気を行うこと

により,①酸素の供給,②炭酸ガスの除去,③アンモニアの除去,④湿気の除去,⑤塵埃の除去,

⑥熱の排出,などがなされるようになります。

換気の手段として,自然換気と強制換気とがあります。

自然換気ではその原動力が自然の風力および畜舎外の

温度差によるものなので,換気量は一定に保持されま

せん。そのために近代的畜舎では排気用換気扇による

強制換気が応用されています。

つまり,1 戸あたりの平均飼養頭数が現在よりも少な

かった時代は開放式の畜舎が主流を占め,換気があまり

重要視されていませんでした。しかし,飼育規模の大型

化,飼養密度が高度化するようになると,畜舎の換気は

衛生管理上重要な要因となってきました。とくに,ウィ

ンドウレス式の豚舎や鶏舎などのような気密性の高い場合では,換気の管理は不可欠の重要なポイ

ントと言えます。換気は各ステージにおける疾病コントロールと大きく関与し,とくに呼吸器疾

病に与える影響は大きいとされています。

表 1 に牛,表 2 に豚,表 3 にウィンドウレス鶏舎での必要換気量をそれぞれ示しました。

特に豚では同じ発育ステージでも夏季と冬季では約 10 倍の換気量差が必要となってきます。

また,換気のポイントとしては,その量とともにいかに空気の流れを均一にするかが重要となります。

開放畜舎の場合,冬は舎内と舎外の温度差により換気はしやすいですが,冷たい空気は重いため家畜

644 畜産の研究 第70巻 第8号 (2016年)

に直接冷気が当たることになるので注意が必要です。また,ウィンドウレスにおいても,陰圧換気

方式では冬場は入気不足になりがちで,入気口からの入気のスピードが落ちることにより,床近くに

冷たい空気の層,天井近くに暖かい空気の層が出来てしまうことがあります。入気口からの入気の

スピードを調節することにより,たえず緩やかな気流を発生させて換気を均一化させる必要が

あります。

換 気 と 保 温 ・ 加 湿 に つ い て

夏の暑い時期における換気は,開放畜舎ではカーテン(図 1)やモニター(図 2)などにより自

然通風で換気を行ないますが,畜舎間に十分な間隔が確保されていない場合は強制換気を行っ

たり,送風機などを用いて空気を動かす必要があります。

低温期における保温と換気は相反する問題であり,保温効果を上げるために換気を制限する

ことは,家畜の呼吸によって産生される多量の炭酸ガスが排出されなくなるばかりでなく,ふ

ん尿から発生するアンモニアガスや舎内のホコリなどの排出不良により,舎内環境の悪化を招

く原因となります。このようなことから,換気がもともと難しい冬季では,保温中心となり換

気不良を起こしやすくなります。

表 1 乳牛舎の必要換気量

寒冷期 温暖期 暑熱期

哺乳牛 (0~2ヶ月齢) 0.405 1.35 2.7

育成牛  2~12ヶ月齢 0.54 1.62 3.51

12~24ヶ月齢 0.81 2.16 4.86

成牛  500kg 1.35 4.59 12.7

堂腰:1987より作表

区  分換気量(m3/分/頭)

表 2 豚のステージごとの必要換気量

最小 最大

子付き雌豚 0.566 2.266 5.947

肥育豚 9~18kg 0.057 0.425 1.019

18~45 0.142 0.566 1.358

45~67.5 0.198 0.708 2.038

67.5~94.5 0.283 0.991 2.832

繁殖豚 90~112.5 0.283 0.991 3.396

112.5~135 0.34 1.132 5.094

135~225 0.425 1.274 7.075

鳥海:1989

区 分

換気量(m3/分/頭)

冬夏

表 3 ウィンドウレス鶏舎での必要換気量

外気温℃ 5 10 15 20 25 30

体重1kg当たりの換気量

(m3/分/羽)

松阪ファームによる

0.03 0.045 0.06 0.08 0.11 0.13

647

―ピラール大学農牧および地域開発学部における卒論指導の一例 その 3-

冨 田 健 太 郎 1

1 (株)宏大 (Kentaro Tomita)

1 .は じ め に

前報では,農牧および地域開発学部の女子学生 María Rosalis García Torres の卒論実験の成

果を報告した。この実験は,論文指導者としての筆者の経験不足は否定しないが,予算的な制

限,前報で報告してきた日系財団所管のパラグアイ農牧研究センター(Centro Tecnológico

Agropecuario del Paraguay: CETAPAR)における緊急特別協力に出向かなければならなかった

ことも含めて,Rosalis とのコミュニケーション不足もあって,なかなか実験が円滑に遂行でき

なかった部分もあった。その一つが,供試植物の取り扱い方である。

筆者は,母校でイネ植物の部位別(子実,葉,茎,根)による化学分析経験を有しており,

部位によって各栄養元素の集積が異なることに興味を抱き,今回の実験においても,供試植物

を可能な限り部位別に分けて分析し,実際問題,茎よりも葉に養分吸収率が多いことを実証し

た。これは,Rosalis に対する教育という面においては有意義であったと考えている。

しかし,ここに筆者にとって一つのミスがあった。それは,今回の卒論実験において,メイ

ンは乳牛の生乳生産評価であるが,その飼料として供給する供試植物は,基本的に茎と葉とい

う部位別に分けて餌として供給するのではなく,これらが混合された状態(自然の状態)であ

り,1 日当たりの供試植物の養分含有量を評価することは難しい側面が生じる。このことは,

準カウンターパートである Ing. MSc. Alberto Bottino からも指摘を受けた(この卒論に関して

は,審査員となった)。実際問題,葉と茎に分けない形で分析することが望ましかったかもし

れないが(Rosalis にとっては計算しやすい),部位別による養分集積の違いを知っていた筆者

は,あまりそれを好まず,この部位別による分析結果を用いて,各供試植物の 1 日当たりの養

分含有量を求めるための計算指導を実施した。その結果が,前報の図 1 から図 3 に示した棒グ

ラフである。

他方,生乳の評価であるが,4 頭と牝牛を用いて評価したが,Camerún の場合は,N14,Chiquita,

Negra および Overita4 頭全ての牝牛に 20 日間供給できたのに対して,Carrizo ならびに Carrizo

+ギンネムを餌として試験した場合は,前者は N14 および Chiquita,後者は Negra および Overita

の 2 頭ずつしかできず,比較試験のやり方が,Camerún と Carrizo および Camerún と Carrizo+

ギンネムという形で比較し,統計処理せざるを得なかったことである。基本的に,4 頭全て供

試植物を餌として 20 日間供給できたならば,Camerún,Carrizo および Carrizo+ギンネムとい

う 3 処理区×20 反復で一つの処理ができたことであろう。それは結果論であるが,生乳の生産

沼 沢 植 物 ヨ シ お よ び ヨ シ + ギ ン ネ ム 飼 葉 供 給 が

乳 牛 の 生 乳 生 産 性 に 及 ぼ す 影 響

― ネ ピ ア グ ラ ス 代 替 の 可 能 性 ( そ の 2) ―

648 畜産の研究 第70巻 第8号 (2016年)

性を評価するに当たっては,各 2 頭ずつの牝牛の生乳生産の平均値を用いて統計処理を実施し

たが,各牝牛の生乳の生産量等,前報の卒論実験の裏側を紹介する。このことは,もちろん,

担当学生 Rosalis に教授し,彼女もそれの理解に努めていったことで評価しているし,日本の学

生諸君にとっても,計算方法等,参考になる部分があれば参考にしてもらいたいと願っている。

なお,各供試植物の水分や養分含有量の計算式における解答数値であるが,実際は,Excel

の表計算による数値をそのまま記入したため,以下、電卓等を用いて、記載公式(小数点以下

2 桁)の計算で解答数値を確認する場合,若干の小数点以下において『ぶれ』が生じる場合も

あるかもしれないが,気にしないでいただきたい。

2 .実 験 材 料 お よ び 方 法

前報においても記したが,本稿でも実験材料と方法は記しておく(経営評価は除く)。

1)試験実施場所および対象物

試験実施は同学部圃場で飼育されている 4 頭の乳牛(牝牛)を用いて実験した。

2)実験方法および材料

供試植物として,ネピアグラス(ここ Pilar では Camerún と称されているので,以下,この

名称を使う)を対照区とし,ヨシ(以下,Carrizo と記す)およびギンネムを用いた(写真 3)。

飼育方法は,前記した 4 頭の内,2 頭の牝牛に対して,20 日間,Carrizo を餌として,午前中

は 12kg,午後は 10kg 新鮮重の形で提供した(つまり,22kg/日である)。

なお,同学部に勤務する獣医師より,肥育牛に対して,一定の配合飼料(栄養バランス剤)

の供給は必要という意見より,午前ならびに午後ともに 3kg(計 6kg/日)を加えた。

他方,別の 2 頭に対して,10kg の Carrizo+2kg のギンネム(タンパク源として)を午前中,

午後は Carrizo8kg+ギンネム 2kg,つまり(Carrizo18kg+ギンネム 4kg/日)を 20 日間餌とし

て提供した。なお,この処理区においても,前記した配合飼料を午前ならびに午後ともに 3kg

(計 6kg/日)組み込んだ。

対照区においては,Camerún を用いたが,前記した Carrizo と同じ量(新鮮重として)を午前

ならびに午後に配合飼料(6kg/日)とともに,20 日間,4 頭全ての牝牛に提供した(写真 4)。

3)供試植物の化学分析

供試植物全てにおいて,分析用サンプルを一部抜粋し,部位別(茎および葉)に分け,部位

別における新鮮重測定後,乾燥機において 65℃で 72 時間乾燥させた。その後,乾物重を測定

して水分含有率の測定を実施した。

家畜飼養の視点から,粗タンパク(NH4+-N×6.25),P および Ca の分析を日系財団所管の

パラグアイ農牧研究センター(Centro Tecnológico Agropecuario del Paraguay : CETAPAR)に

おいて実施した(この時期,本誌前報でも取り上げたが,筆者は 2011 年 6 月に実施した第一回

CETAPAR 緊急特別協力において,この Rosalis のサンプルも持参して,分析スタッフに対する

教育材料の一つとして用いていた)。

NH4+-N の測定はケルダール蒸留法に,P および Ca は乾燥供試植物サンプルを硝酸・過塩

素酸分解により液化し,分析用サンプル調整後に,前者は分光光度計,後者は原子吸光分析に

より測定した。